末梢性顔面神経麻痺に対する鍼治療について

 突然に片側の目や口が動かせなくなる末梢性顔面神経麻痺は、多くは体内に潜在しているヘルペスウィルスが原因といわれています。発症から数日の間に進行する神経損傷のタイプにより、ある程度予後が予測できるのも特徴です。顔面神経は顔の表情をつくる筋肉(表情筋)を支配している神経です。この神経が炎症などによって損傷をうけることによって神経から筋肉への伝達がうまくいかなくなり、動かすことができなくなります。神経の損傷の程度により1か月ほどですっかり良くなるもの(脱髄型)もあれば、3か月ほどかけて回復するもの(軸索断裂型)、4か月ほどゆっくり時間をかけて表情がある程度まで回復してくるものの完全には元に戻りにくいうえに、神経が伸びていく過程で神経の混線がおこり(迷入再生)高率で病的共同運動などの後遺症をおこすタイプ(神経断裂型)があります。

 治療としてはなるべく早く抗ウイルス薬やステロイドによる薬物治療をおこなうことが一般に優先すべき治療です。これは、神経の炎症による損傷を抑えるために必要です。2週間程度入院治療を行う場合もあります。また、圧迫を取り除くために減価術という手術を行う場合もあります。損傷の程度が軽ければ3週間ほどで改善する人もいます。

 現在、顔面神経麻痺に対する鍼治療のエビデンスは確固としたものは認められていませんが、実際に鍼治療が効果的であったケースはたくさんあり、学会などでも複数報告があります。院長が非常勤勤務している東京女子医科大学附属東洋医学研究所鍼灸臨床施設では、顔面神経麻痺の患者さんが多く来院されていますが、基本的には1か月程度待っても表情の回復が遅い方に鍼治療を行っています。また、神経の迷入再生を促す可能性のある通電治療は現在行っていません。そして、顔面神経麻痺治療をおこなう鍼灸師は顔面神経学会のリハビリテーション講習を受けており、鍼治療とリハビリ指導はセットで行っています。急性期の薬物治療が終わると自分で行うリハビリをしながら、気長に神経の再生を待つくらいしか医師のほうも手段がないため、この期間にリハビリと鍼治療を行っている方が多いです。

 神経断裂型では表情の回復も完全によくなることは少ないうえに高率に後遺症発現が想定されるのですが、それでもなるべく早い時期から後遺症の程度を軽くできるように正しいリハビリテーションを行うことが重要です。どのタイプの方でも基本的に鍼治療で表情の回復を促しつつ、リハビリテーションを根気よく続けていただき後遺症を予防していくことが重要と考えています。そのうえで、他の治療を受ける機会を逃さないよう急性期に治療を行った医療機関には一年程度はきちんと受診を続けておくことが望ましいです。

当院では、東京女子医科大学鍼灸臨床施設で行っている顔面神経麻痺の鍼治療と同様の方式でリハビリテーション指導と鍼治療をセットで行っております。回復経過は写真により客観的に把握するようにしています。回復過程は発症初期の段階である程度の予後の予測が可能ですので、初診時などに回復曲線などをお見せしながら、現在の状況についてお話ししてから治療を行うようにしています。発症から1年たつとほとんどのケースで症状は固定したと考えられますので、発症から時間の経っている方については表情の回復というよりはこわばりなどの後遺症が少しでも和らぐことを目的とした治療を行います。また、日本顔面神経学会主催の第11回顔面神経麻痺リハビリテーション技術講習会に参加し認定試験に合格しております。

顔面神経麻痺で受診をご希望の方は、メールにてお問い合わせください。

また、顔面神経麻痺の鍼治療に関しては男性の方もご予約を受付けております。

**2023年5月に出版された「顔面神経麻痺治療ガイドライン」では、「急性期に鍼治療を行うことを弱く推奨する」「後遺症が出現した慢性期に鍼治療を行うことを弱く推奨する」にグレードアップされました。正しい評価やリハビリテーションを行える鍼灸院を選んでください。当院の鍼灸師は日本顔面神経学会リハビリテーション講習試験に合格しています。